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「膀胱癌」について

膀胱癌 (1)

 膀胱癌についてお話します。

 膀胱に発生する腫瘍の大部分は、膀胱粘膜を形成する移行上皮由来の移行上皮癌で、50歳以上の男性に多い、(男女比=3~4:1)といわれています。その原因は、以前は染料に含まれる科学物質によるものがありましたが現在では使用禁止になっており、原因不明のものがほとんどです。統計学的には、喫煙者・コーヒー多飲者に多いとも言われていますが、タバコと肺癌や心筋梗塞ほどの因果関係はありません。

 症状は、無症候性肉眼的血尿といって排尿時の痛みや頻尿などの膀胱の刺激がなく突然に目で見てもわかるくらいの血尿が出ることくらいで、ほとんどは無症状で経過します。一度でもこのような出血(血尿)があったときには泌尿器科で詳しい検査をうける必要があります。また上皮内癌では、下腹部不快感・排尿時痛・頻尿などの症状を呈することがありますので、、膀胱炎や前立腺炎が治りにくく潜血尿が続く時も要注意です。

膀胱癌 (2)

 膀胱癌の検査は、尿に血が混じってないか検尿します。肉眼的にきれいでも顕微鏡で赤血球や白血球の数を数え、異型細胞などがないかを調べます。血尿を認めた場合は尿の細胞を詳しく調べ(尿細胞診)、種瘍が疑われれば膀胱鏡検査で直接膀胱粘膜の観察をします。膀胱癌の多くは有茎性の乳頭上発育をしカリフラワーのような形をしていますが、なかには結節状のミンチボールの様なものや粘膜がビロード状に不整に変化しほとんど隆起のないものもあります。一般的に茎があり、かつそれが細いものは表在性の悪性度の低いタイプの癌で、結節状に盛り上がったものは膀胱の筋肉や周辺組織に侵潤し進行癌へと移行しやすいと言われています。また、上皮内癌といわれるものは粘膜をはう様にして発育するため境界が不明瞭で、肉眼的に炎症性変化との区別がつきにくいです。膀胱鏡検査は消化器内科でいえば胃カメラや大腸ファイバーと同じような検査で癌などの腫瘍を発見するためには必要不可欠な検査です。

膀胱癌 (3)

 膀胱鏡で腫瘍が確認されたら、他の臓器やリンパ節に転移がないかの全身的な精密検査を行い、手術前の病気分類(早期癌か進行癌かの判断)をします。具体的には腹部のエコー(超音波検査)・CT検査・MRI検査・骨シンチ・腫瘍シンチなどがありますが、必ずしも全ての検査が必要というわけではないので、担当の先生と相談して検査の計画を立てれば良いと思います。ただし、腹部のエコー(超音波検査)・CT検査くらいは行っていたほうがいいでしょう。ここで転移を疑わせる所見があれば、さらなる精密検査をうける必要があると思います。

 治療の第一歩は、腫瘍の性質(良性か悪性か)や深さ(表在性か侵潤性か)を判断するために径尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-BT)を行います。この手術で腫瘍が完全切除できているか否かで後の治療方針も大きく変わりますので、十分な範囲で筋層(筋肉)の一部を含むくらいの深さで切除する必要があります。

膀胱癌 (4)

 径尿道的膀胱腫瘍切除術の後に病理診断で膀胱癌が確認されても、初発(初めてできた)で単発(1個しかない)で表在性(粘膜の下までに留まっている)であれば、径尿道的手術で根治されていると判断して追加の治療は必要ないでしょう。ただし、再発例や初発でも癌が多発している場合は、表在性であっても予防的治療を行ったほうが良いでしょう。というのは、膀胱癌は再発の多い癌で、このような症例では、無治療で様子を見た場合は過半数で再発の可能性があります。予防の治療は膀胱内に抗がん剤を注入するもので、薬が癌細胞に直に接するので治療効果も高く、体内(血管内)に薬が入らないので抗癌剤特有の脱毛・食欲低下・全身倦怠感・白血球減少などの副作用は起こりません。ただし、薬による難治性の膀胱炎で頻尿・排尿痛・血尿などが続く事があります。使用する抗癌剤や投与方法はいろいろありますが、通常週一回の注入で外来治療(入院の必要はありません)で行います。また、異型度の高い上皮内癌ではBCGを膀胱内に注入します。

膀胱癌 (5)

 癌が筋肉まで達する侵潤癌の場合は、転移のない状況であれば手術(膀胱全摘除術)で癌病巣を完全の取り除くのが、最も根治が期待できます。膀胱癌は再発の多い腫瘍ですので、癌病巣(膀胱の一部分)だけ切除し膀胱を残した場合は多くが再発・転移を起こし悲惨な経過をたどりますので、完全切除が手術の原則となります。膀胱が無くなると、尿を溜める事が出来なくなりますので、尿路変更(変向)が必要となります。尿路変更には、 ①尿管を直接皮膚に出す尿管皮膚瘻 や  ②腸(回腸)を導管として使う回腸導管 や ③腸で尿が溜まる袋を作り導尿して排尿するバウチ式代用膀胱などがありますが最も多く行われているのは②の回腸導管でしょう。また、適応にいろいろな条件がありますが、 ④腸で膀胱に変わる袋を作りそれを尿道に吻合して手術前と同じように尿道から排尿できる新膀胱という方法もあります。

膀胱癌 (6)

 転移のある進行性膀胱癌では、抗癌剤を用いた全身的科学療法が行われます。数種類の抗癌剤を組み合わせて投与し、通常4週を1コースとして3コースを目標にして治療しますので、治療期間もかなり長くなります。主な副作用としては、白血球減少・貧血などの骨髄抑制や嘔気・嘔吐・食欲低下・難治性の口内炎などの消化器症状であり、全身倦怠感や脱毛も高い確率で起こります。抗癌剤の種類により心臓や腎臓や末梢神経に障害が発生することもあります。最近では副作用が比較的少なく、膀胱癌にも有効な抗癌剤が開発されており(まだ保険適応がない)、その治療成績が注目されています。

 放射線治療は、最近照射方法や治療機器の発達が著しいのですが、膀胱癌に限れば単独で治療されることは少なく、手術や抗癌剤による科学療法と併用することによって根治性を高める目的で使用されます。元々膀胱粘膜は放射線による(放射線膀胱炎)が起こりやすく、後に膀胱出血や頻尿・排尿痛などが持続することもあります。