コラム一覧

「腎臓癌」について

腎臓癌 (1)

 腎臓の癌には、腎臓実質(近位尿細管上皮に由来)より発生する腎細胞癌と腎盂粘膜から由来する腎湯癌があります。腎盂癌は移行上皮から発生し、その性質が膀胱癌と同一で治療法なども擬似していますの、今回は腎細胞癌についてお話します。

 腎細胞癌の特長は、初期にはまったく無症状で経過するため、従来は進行癌の状態で見つかることが多かったのですが、最近は検診の普及で超音波検査で早期の段階で確認されることが増えました。その結果、5年生存率などの治療成績の向上を示しています。

 腎細胞癌の発育は、急激に進行し1~2年以内に死を迎える急速型と10年~20年経過しゆっくり進行していく緩除形と二つに大きく分けられますが、10年以上再発・移転もなく順調にしていたものが、いきなり転移が出現し急速に進行したりするので、経過を予想しずらい油断の出来ない疾患と言えるでしょう。

腎臓癌 (2)

 腎臓癌は、初期の頃は無症状に経過するために乏しいのですが、血尿・腎部痛・腫癌触知などが主な自覚症状で、その他に発熱・体重減少・全身倦怠感・胃腸症状などがあります。最近では、健康診断の超音波検査で無症状のうちに発見されることが多くなっています。

 血液検査では、血沈の亢進やCRP陽性などの炎症反応やα2グロブリン・アルカリフォスファターゼ(ALP)の上昇などが言われていますが、腎細胞癌特有の腫瘍マーカーと言えるものはありません。

 診断には、超音波検査・腎盂造影(IVP)・腹部CT・腹部MRIなどの検査が行われます超音波検査は非侵襲的検査で腫瘍の確認有用であり、内部の血流状況や下大静脈への腫瘍塞栓の有無までも把握でき、必要不可欠の検査です。IVPでは、腎輪郭の突出・腎盂腎杯の圧俳変形像・無機能腎などが見られますが、正常のことも多いです。CT・MRIで腫瘍の詳しい状態がわかります。

腎臓癌 (3)

 腎臓に腫瘍(癌)が確認されたら、移転がないかを全身的な検査が必要となります。

 移転は血行性が主体で臓器としては臓器としては肺が最も多く、したがって胸部X線検査と胸部CT検査は必ず行うべき検査といえます。続いて転移の好発部位は骨・肝臓などで脳にもしばしな見られ、末期になるとあらゆる臓器に転移が出現します。さらに、リンパ節転移も高頻度で認めます。

 他の癌では、転移は早期の段階で(1~2年以内)出現することが多く、5年以上経過すれば転移の発生頻度は急激に下がりますが腎盂癌の場合は手術で治癒切除出来ていても、長期にわたりほぼ一定の頻度で転移が出現するという特長があります。初診時に転移の無い症例で、最初の5年で36%に、5~10年で21%に、さらに10年~15年で33%に転移の出現を見たという報告もあります。

 そのため、腎臓癌の診断が下ったら10年20年と長い期間にわたって、厳重な全身的検査が必要になります。

腎臓癌 (4)

 腎臓細胞の治療は、早期癌だけでなく転移を有する進行癌であっても手術が第一選択となります。

 腎臓に限局した早期癌であれば、開腹して腎周囲筋膜を含めた周囲死亡組織ごと腎膜を摘出する根治的腎摘除術が一般的でしたが、最近では腹膣鏡下の手術や腫瘍だけを摘出する腫瘍核手術などのより侵襲の少ない手術法が行われるようになりました。

 また、移転を有する進行癌の場合は、他臓器の癌では移転があれば根治性がないため手術の適応にならないのですが、腎細胞癌では手術以外の有効な治療法が乏しいのと免疫と大きく関わりがあり原発巣を切除することで移転巣が縮小することがあるため、可能な状況であれば腎切除術が行われます。癌が大きく発育し周辺臓器(腸管や肝臓など)へ直接に浸潤したり、腫瘍が血管内に発育し腎静脈から下大静脈さらには心臓(右心房)まで伸びていくこともありますが、その際には消化器外科や心臓血管外科の協力を得ながら大手術となります。

腎臓癌 (5)

 腎臓癌は従来より薬の効かない癌として知られていますが、数少ない有効な薬物治療としてインターフェロン療法があります。自己免疫能を高めて癌の増殖を抑えることで再発予防や転移巣に対する治療として広く行われていますが、それでも有効率としては20%前後と言われています。インターフェロンは高価な薬であり、発熱・倦怠感・精神症状などの副作用も強く、現状では他に有効な薬がないといってもまだまだ満足のいく薬ではありません。
 最近では、癌の新しい治療法として癌細胞の血管新生を阻害して癌を縮小させる分子標的治療薬が開発され、腎臓癌に対しても非常に有効であることがわかっています。皮膚症状や高血圧などの副作用もありますが、抗癌剤やインターフェロンほど強いものではなく、進行性腎臓癌における画期的な薬になる可能性があります。現在は一部の総合病院でしか使うことが出来ませんが、近いうちに広く使用できるようになるでしょう。